【視察】 ノボシビルスクのスタートアップ事情
ノボシビルスクは、日本ではあまり知られていませんが、人口150万人を擁するロシアで3番目に大きい都市です。ソ連時代から学術都市(アカデムゴロドク)として栄えた地域で、優秀な科学者やエンジニアが多く住んでいます。ちなみに、真冬には-40度まで下がるそうです(先週は-25度でした)。
アカデムパーク
ノボシビルスクの駅からバスで1時間のところに、アカデムパーク があります(2010年建設)。ここでは、学術研究に基づいたビジネス、ベンチャー企業を創出しようと、政府系の研究機関(ロシア科学アカデミー)、大学(ノボシビルスク大学など)、インキュベーションセンターが徒歩圏に集まり、シベリア発のベンチャーエコシステムを創ろうとしています。
スタートアップツアー
Russian Startup Tour という政府系ファンドが主催するイベントがあります。ロシアの全27都市で3か月かけて、ピッチコンテストをやる、というスタートアップの啓蒙活動です。
このイベントで、15件のピッチを聞きましたが、ほとんどのプレゼンが、バイオ、ナノ、エネルギーに関するプレゼンで、事業内容については、前回と同様、よくわかりませんでした。ただ、特徴的だったのが、圧倒的にビジネスサイドが不足し「シード投資1~2億円とマーケターを募集しています」というプレゼンが多かったです。
技術的な課題についての言及はありませんでした。もちろん、研究がうまくいったから、ビジネス化しよう!という思考なので、技術面に不安があれば、研究段階のはずです。なので、プレゼンも「テクノロジー」について熱弁することが多く、市場やファイナンスについての説明は、大学生のビジネスコンテストレベルでした...。
優秀なプログラマー
で、肝心のITに関して、優秀なプログラマーがいることも事実です。特筆すべきは人件費で、モスクワで、プログラマーを雇う場合、1~3年目:18万円、4~7年目:24万円、8~10年目:30万円、くらいだそうです。一方で、ノボシビルスクでは、1~3年目:9万円、4~7年目:12万円、8~10年目:21万円、とだいたい半分の給料で雇うことができます。したがって、海外の大企業が、オフショア開発 or R&Dセンターを目的に彼らを雇うケースが多いです。
とはいえ、ノボシビルスクを代表する企業はいずれも IT企業です。
1つめは、Alawar Entertainment というカジュアルゲームを開発している会社です。1999年に創業、37言語に対応し、Farm Frenzy などをはじめ 300本のタイトルを出しています。2012年には、Game Developers Conference で「ロシアで最も優れたパプリッシャー」として表彰されています。ちなみに、Forbes.ru によると2012年の売上が30億円だったようです。
もう1つは、以前も紹介した Appercodeです。詳しくは こちら をご覧ください。
感想
ノボシビルスクのスタートアップ環境は ヒトもカネもない状況でした。
基本的に研究ベース(=ハイテクスタートアップ)なので、創業メンバーの平均年齢も高く、30代40代が中心になります。また、サイエンティスト(or エンジニア)によって構成されるチームのため、ビジネス経験もなく、海外展開などスケールさせる意欲を感じませんでした。したがって、VCが入るメリットが薄く、結果、スタートアップは政府からの助成金に頼ることになります。ゆえに、ビジネスノウハウも入ってこない・蓄積されない、という感じです。また、多くがIT以外であるため、多産多死型でもありません。
実際、審査員はほとんどがスコルコボの方々で、唯一VCとしては、シベリアを中心に投資を行うキャピタリスト1名だけでした。(審査員のスコアシートをチラ見したのですが、スコルコボ関係者は軒並み 低い点数 を付けていました...)
だからこそインキュベーションセンターが設立されたわけで、まだ歴史が浅く「時間が必要だ」という見方もありますが、ITスタートアップに関して言えば、モスクワやカザンの方がよっぽど期待できる、という印象を受けました。もちろん、ハイテクスタートアップ(バイオ、ナノ、エネルギー)であれば、ノボシビルスクはとても重要な地域だといえるでしょう。