IT大国ロシア

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【視察】モスクワ物理工科大学 バイオインキュベータ


MIPT (Московский Физико-Технический Институт госдарственный университет)

モスクワ物理工科大学、ロシアのMITと称される国立大学です。僕が知る限り、急成長を遂げているスタートアップの起業家は、ここの卒業生(物理学、数学、コンピュータサイエンス専攻)であることが多いです。

ホームページを見ていると、大学内にバイオインキュベータが存在することを知り、興味本位で連絡したところ、雑談含め 5時間も施設を案内していただけました!


モスクワ物理工科大学

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この大学では学士と修士合わせて5000人の学生が学び、多くのドクターが研究をしています。アクセスはイマイチで、モスクワ都心部から電車で30分、バスに乗り換え30分です。このインキュベータの役割は、ベンチャー支援を通じて、大学研究*1を社会に送り出すため、産業界との橋渡しをしています。また、政府計画 (The Development of Pharmaceutical and Medical Industry of the Russian Federation until 2020 and beyond) モスクワにバイオクラスターを設ける一翼を担っています。


インキュベーションセンター
2012年5月に設立されてから、すでに15の企業が誕生し、

インフルエンザや生活習慣病HIV/AIDSの治療薬
ガン細胞を分析し、副作用のもっとも少ない薬の投薬を可能にするシステム
人工授精により高確率で生じる障害を早期発見(その後は中絶?早期治療?)
抗体の似た細胞を移植することで、回復を早める何か(笑) など

当インキュベータは、製薬と医療器械の開発に重点を置いています【公式HP

あくまでも大学であるため、教育と商業化のバランスが難しいということ。研究費は主に助成金(数百万円)頼みで、一概には言えませんが、研究段階では数千万円~1億円の予算が必要で、動物実験など商業化を目前に控えた段階では、2030億円が必要とのことです。

ちなみに、インキュベーションセンターのディレクターは、元コンサルタントで、日本語は話せませんが、日本に来たこともある、日本好きな方で、インキュベーションセンターなのに、兜や刀が飾ってありました!


リーダー育成プログラム
他にも、研究者の卵を「単なる研究者」ではなく「リーダー」「プロジェクトマネージャー」として育てる有料プログラムも提供しています。チームビルディングやマーケティング、知財戦略を中心にレクチャーし、その後、実際にプロジェクトを運用させます。35年の就業経験のある35歳以下が対象で、数学と英語、専門分野の知識が問われるそうです。(数学が必須、というのがさすが…)


大学ファンド

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さらに、興味深いことに、Phystech Ventures という30億円規模のファンドを最近立ち上げました。Fintech, Edutech, HealthcareIT, 3D-printing, Efficient energy use, Technologies in oil & gas の分野に1件あたり5000万円程度のシード投資を行っていくそうです。RunaCapital AlmazCapital のキャピタリストもコミットしており、いわゆるビジネスサイドはキャピタリストが全面支援するそうです。


感想
政府や大学は2020年を目途に教育プログラムや都市計画を推進しています。教育に時間とお金を費やすのはとても正しいことだと思いますし、夢や希望があってワクワクします。とはいえ、僕がいうのも大変おこがましいですが(日本と比べると)「やっとこの程度か」という印象を受けます。

確かに、今までなかったこと・ものをはじめる、というのは大きな変化をもたらすと思います。ただ、トップダウンだけではなく、現場レベル(学生・若者)でも自発的な動きが生まれないと、物足りない気がします。

もっとストレートにいうと、ロシアの20代前半は受身です。国柄?をくみ取ると、ロシアで若者といえば18歳~35歳を差し、修士課程への進学率も比較的高いことから、20代前半は教えてもらうもの、という雰囲気が根付いています。

言い換えれば、学術的な教育水準はとても高いことを意味します。だからこそ、先に述べたリーダー育成プログラムやインキュベータが機能すれば、一気に回りはじめると思っています。

*1:埋没する研究が多いことから、"象牙の塔"と揶揄される